大切なのは人前に立って歌う理由と自問!

大切なのは人前に立って歌う理由と自問!


中川五郎さんの仰ることは重い・・・。

▼毎日新聞2017年1月19日 大阪夕刊
ぶんかのミカタ
関西フォーク半世紀/上 「下手でいい、伝わるなら」の火=フォーク歌手・中川五郎
http://mainichi.jp/articles/20170119/ddf/012/040/010000c

「下手もうたのうち/下手も味のうち/下手でもいいじゃないですか/みんなに伝わっていくならば」
 これは去年の暮れに発表された笠木透と雑花塾のCD文庫『これがすべての終りとしても』に収められている「下手もうたのうち」の出だしの歌詞だ。2014年12月にこの世を去った笠木さんが残した歌詞に佐藤せいごうさんが曲をつけて歌っている。笠木さんは1969年から71年まで毎年、岐阜県で開かれた中津川フォーク・ジャンボリーの中心人物で、70年代には我夢土下座(カムトゲザ)、90年代中ごろからは雑花塾を率いて歌を作り歌い続けた。日本のフォークソングを語る上でとても重要な存在だ。
inRead笠木さんが残した「下手でもいいじゃないですか/みんなに伝わっていくならば」というフレーズこそが、60年代後半に関西を中心に始まり、日本中に広がっていった日本語で歌うフォークソング、いわゆる関西フォークを端的に言い表しているとぼくは思う。最初はただかっこいいからとアメリカのフォークソングを英語でまねするだけだったかもしれないが、やがてウディ・ガスリーやピート・シーガー、ボブ・ディランらが作って歌う歌を通じて、その立ち位置や精神を学び、「誰もが自分の歌いたいことを自分のやり方で歌ってもいいのだ」という、フォークの真髄(しんずい)を突き止めたのだ。その発想で歌が作られ歌われるかぎり、そこにはうまいも下手もない、プロもアマチュアもない、大事なのは誰に向かって何を歌うのかということだった。
 そんな同じ思いを抱いて、京都ではザ・フォーク・クルセダーズ、大阪では高石ともやさんが先頭に立って歌い始め、彼らに引っ張られるかたちでいろんな人が自分のやり方で自分の歌を歌い始めた。66年の終わりから67年のことで、その頃高校生だったぼくもまたその中のひとりだった。
 黎明(れいめい)期の関西フォークの世界では「下手でもいいじゃないですか」という、おおらかで優しい考え方が広く共有されていた。だからこそぼくのような歌の下手な、ギターもろくに弾けない高校生がその輪の中に入っていけ、自分よりも年上の人たちに温かく迎え入れられたのだ。
 しかしそれは「あなたはいったい何を歌いたいのか」「何で人前に立つのか」という問いかけを真剣に突きつけられることでもあり、「うまい歌を聞かせたい」「かっこいいところを見せたい」という動機よりも、うんと鋭く厳しいことでもあった。「下手でもいいじゃないですか」というのは、単なる開き直りではなく、歌う人に強い覚悟を要求することで、それは「うまければそれでいい」というそれまでの歌い手の条件、人前で歌うとはどういうことなのかという概念を根本から覆す革命的なことでもあったのだ。
 関西フォークの最初の2年間は、この革命が豊かに花開いた時期だとぼくは思っている。しかし関西フォークが注目され、商業主義と結びつき、スターが登場してくる中で、「下手でもいいじゃないですか」という発想は徐々に淘汰(とうた)されていった。ぼくの中での関西フォークのピークは69年の第1回中津川フォーク・ジャンボリーで、その後は下り坂を転がり始めた。
 それから50年近くたち、67歳になったぼくは今も当時と同じ姿勢、同じ考えで歌を作って歌い続け、一年の半分以上、日本中を歌って回っている。いろんな場所で「下手でもいいじゃないですか」と、世代に関係なく自分の歌を作って歌っている人に出会う機会もある。大きな運動はもはやどこにもないとしても、関西フォークの火は決して消えていないとうれしくなり、まだまだ歌い続けられるぞと勇気づけられる。
      ◇
 昨年、ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランらの影響を受けて誕生した関西フォークの半世紀について、2人のフォーク歌手に寄稿をお願いした。=次回は26日
 ■人物略歴
なかがわ・ごろう
 1949年大阪府生まれ。68年に「受験生ブルース」「主婦のブルース」を発表。翻訳、小説も手掛け、70年代から音楽関係の執筆が活動の中心になったが、90年代半ばから再び歌うことを中心にする。最新アルバムは25日発売の『どうぞ裸になって下さい』。


同じカテゴリー(音楽)の記事

※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

写真一覧をみる

削除
大切なのは人前に立って歌う理由と自問!
    コメント(0)